入院の持ち物、スリッパだけになっていませんか?リハビリに靴が必要な理由

入院の持ち物、スリッパだけになっていませんか?リハビリに靴が必要な理由

回復期リハビリテーション病棟に入院してくる患者さんのなかに、履物がスリッパだけの人がいます。
これからたくさん歩く練習をするのに、スリッパって……。
ほぼ全員の患者さんは靴です。
靴。
そりゃそうですよね。
でも、たまにスリッパだけの患者さんがいるんです。
Xにも、こんなポストをしました。
回復期リハビリテーション病棟に入院している患者さんで、スリッパしか持ってきていない人がいます。リハビリで歩く訓練をするのだから、
— ふるたによしひさ@看護師 (@yoshihisanurse) September 28, 2026
靴を持ってきてください。
靴を持ってきてください。
靴を持ってきてください。
靴を持ってきてください。
大事なことなので、これ、次の期末テストに出ます。
回復期リハビリテーション病棟に来る患者さんの多くは、急性期の病院から転院してきます。
前の急性期にいたときに、家族さんが靴を持ってきてくれていたらいいんですけどねー。
家族さんもそこまで気づかなかったのか、履物にあまり関心がないのか。
とにかく、リハビリするのにスリッパは不適切です。
「スリッパでも歩けるんだから、いいんじゃないの?」と思われるかもしれません。
でも、これにはちゃんと根拠があるんです。
研究をいくつか紹介します。
履物によって「転びやすさ」が変わる
アメリカで、65歳以上の高齢者1,371人を2年間追跡し、転んだときに何を履いていたかを調べた研究があります(Koepsell et al., 2004)。
転んだ327人と、年齢・性別をそろえた転んでいない327人とをくらべて、履物ごとの転倒リスクを分析しました。
その結果、もっとも転倒リスクが低かったのは、運動靴(スニーカー)でした。
【研究データ】
運動靴を履いているときとくらべて、裸足や靴下だけで歩いているときの転倒リスクは約11.2倍に跳ね上がったと報告されています(Koepsell et al., 2004)。
グラフにすると、こんな感じです。
履物別の転倒リスク(運動靴を1とした場合)
出典:Koepsell et al., 2004(調整オッズ比)
運動靴・スニーカー
| 1.0 |
それ以外の履物
| 1.3倍 |
裸足・靴下だけ
| 11.2倍 |
スリッパは脱げやすい履物です。
脱げてしまえば、そこからは靴下や裸足で歩いているのと同じことになります。
そう考えると、スリッパだけというのは、なかなか心配な状態なんです。
もうひとつ、オーストラリアの研究も紹介します。
転んで股関節を骨折(大腿骨近位部骨折)した高齢者95人に、骨折したときに何を履いていたかを調べた研究です(Sherrington & Menz, 2003)。
【研究データ】
転倒して股関節を骨折した高齢者95人のうち、22%がスリッパを履いており、75%が「固定するものがない」「かかと部分や靴底がやわらかすぎる」など、少なくとも1つ以上の好ましくない特徴をもつ履物を履いていたと報告されています(Sherrington & Menz, 2003)。
転倒して骨折した人の履物(95人)
出典:Sherrington & Menz, 2003
| 75% | 25% |
■ 好ましくない特徴がある履物 ■ それ以外
骨折は、リハビリをしている患者さんにとって、いちばん避けたいことのひとつです。
せっかく回復してきたのに、転んで骨折したら、また振り出しに戻ってしまいます。
スリッパは「バランス」も「歩き方」も悪くする
スリッパがよくないのは、転びやすいからだけではありません。
歩き方そのものが変わってしまうんです。
オーストラリアの研究で、65〜83歳の女性30人に、①靴下だけ、②かかとのないスリッパ、③かかとを包んで面ファスナーで固定するタイプの室内履き、の3つで、バランスや歩き方を比べたものがあります(Menz et al., 2017)。
【研究データ】
高齢女性30人の研究では、かかとのないスリッパや靴下で歩いたときは、かかとを包んで固定する室内履きにくらべて歩く速さが有意に遅くなり、ふらつきやバランスの成績はかかとのないスリッパがもっとも悪かったと報告されています(Menz et al., 2017)。
バランス・歩行の成績(よい順)
出典:Menz et al., 2017
| 1位 | かかとを包み、面ファスナーで固定する履物 |
| 2位 | 靴下だけ |
| 3位 | かかとのないスリッパ |
靴下よりもスリッパのほうがバランスが悪い、というのはちょっと意外ですよね。
病棟で見ていても、スリッパの患者さんは脱げないように気をつかって、すり足のような歩き方になりがちです。
脳卒中の患者さんを対象にした研究もあります。
韓国のリハビリテーション施設で、片麻痺のある脳卒中患者さん32人に、裸足・足首までおおう靴・平たい靴・スリッパの4つで立ってもらい、体のゆれを測定しました(Cho & Lee, 2014)。
【研究データ】
リハビリ中の片麻痺の脳卒中患者さん32人を調べた研究では、スリッパや平たい靴を履いて立ったときの体のゆれは、足首までおおう靴を履いたときより有意に大きかったと報告されています(Cho & Lee, 2014)。
回復期リハビリテーション病棟には、脳卒中の患者さんがたくさん入院しています。
もともとバランスをとりにくい患者さんにとって、スリッパはさらに不利な条件を足してしまうことになるんです。
リハビリに適した靴とは?
では、どんな靴がいいのでしょうか。
高齢者の転倒予防と履物の研究をまとめた論文では、家の中でも外でも、かかとが低く、しっかりした滑りにくい靴底の靴をすすめています(Menant et al., 2008)。
2024年に発表された総説でも、かかとの高さは4cm以下、靴底は滑りにくいゴム製、ひもや面ファスナーでしっかり固定できるもの、かかと部分(ヒールカウンター)がしっかりしたもの、が推奨されています(Kim & Hegazy, 2024)。
実際の病院でも、たとえば亀田総合病院では、スリッパやサンダルは「脱げやすく、摩擦が強いとつまずく原因」になるとして禁止し、履き慣れた運動靴など、かかとつきの履物を用意するよう案内しています。
スリッパと、リハビリに適した靴をくらべると、こうなります。
スリッパと、リハビリに適した靴のちがい
| ポイント | ✕ スリッパ | ◎ 適した靴 |
|---|---|---|
| かかと | おおわれていない | しっかり包む |
| 固定 | なし(脱げやすい) | ひも・面ファスナー |
| 靴底 | やわらかく滑りやすいことも | 滑りにくいゴム底 |
| かかとの高さ | - | 低め(4cm以下) |
| サイズ | ゆるくてもはけてしまう | 足に合っている |
ポイントは、「かかとがある」「しっかり固定できる」「滑りにくい」「足に合っている」の4つです。
むくみや麻痺があって履きにくい方は、面ファスナーで大きく開くタイプのリハビリシューズも便利ですよ。
スリッパだと歩行訓練が進まない
スリッパしか持って来られていない患者さんだと、歩行訓練がなかなか進みません。
家族さんが翌日とか、迅速に持って来られたらいいのですが、そうともかぎらないことがあります。
その場合は、やむをえず病棟にある予備の靴をはいてもらうことがあります。
しかし、これは本当に例外です。
だって、人によって足のサイズが違いますから。
病棟の予備の靴が、その人に合うとはかぎらないからです。
サイズが合わないと、当然、歩行訓練は十分におこなえません。
やむをえずスリッパで訓練することもありますが、思うようなパフォーマンスは出ませんね。
回復期リハビリテーション病棟の入院期間には限りがあります。
靴が届くのを待っているあいだの1日1日が、本当にもったいないんです。
おわりに
というわけで、リハビリには履物選びは超重要です。
いい靴、高価な靴じゃなくていいんです。
ふつうの靴でいいですので、スリッパだけはやめましょう。
ご家族が入院されて、これからリハビリをするという方は、ぜひ履き慣れた靴を1足、持って行ってあげてください。
大事なことなので、これ、次の期末テストに出ます。
それでは最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
【参考文献】
・Koepsell TD, Wolf ME, Buchner DM, et al. Footwear style and risk of falls in older adults. Journal of the American Geriatrics Society. 2004;52(9):1495-1501.
https://doi.org/10.1111/j.1532-5415.2004.52412.x
・Sherrington C, Menz HB. An evaluation of footwear worn at the time of fall-related hip fracture. Age and Ageing. 2003;32(3):310-314.
https://doi.org/10.1093/ageing/32.3.310
・Menz HB, Auhl M, Munteanu SE. Effects of Indoor Footwear on Balance and Gait Patterns in Community-Dwelling Older Women. Gerontology. 2017;63(2):129-136.
https://doi.org/10.1159/000448892
・Cho K, Lee W. Changes in Postural Sway According to Footwear Types of Hemiparetic Stroke Patients. Journal of Physical Therapy Science. 2014;26(6):861-864.
https://doi.org/10.1589/jpts.26.861
・Menant JC, Steele JR, Menz HB, Munro BJ, Lord SR. Optimizing footwear for older people at risk of falls. Journal of Rehabilitation Research and Development. 2008;45(8):1167-1181.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19235118/
・Kim IJ, Hegazy F. Enhancing Footwear Safety for Fall Prevention in Older Adults: A Comprehensive Review of Design Features. Annals of Geriatric Medicine and Research. 2024.
https://doi.org/10.4235/agmr.23.0167
・亀田総合病院「入院中の履き物について」
https://medical.kameda.com/general/topics/detail/02992.html



この記事へのコメント
骨折してからほぼスニーカーしか履かなくなりました。
PTさんおすすめのメーカーのを履いています。
nice!です☆
私も入院時は履きなれたスニーカーで
来院くださいと書かれていました。
トイレ用にサンダルをもって行きましたが
使いませんでした。
ずっとスニーカーで過ごしましたね。
リハビリ時は全員スニーカーでしたね。
関連するので、当てはまりますね!
どちらの病院でも上履き用に布の白いデッキシューズが指定でした。
紐のないスポっと履けるやつです。
自力で歩けるので、スリッパの危険性への配慮なんですかね。
10年前に脳梗塞で入院した際、(今は後遺症なし)
スリッパって、こんなに簡単に脱げるものだったのかと思い知りました。
ただ足を突っ込んでるだけのように見えて、
脱げないような微妙なコントロールが必要なのでしょうね。
何ででしょうね?
わかった。
私の記事にコメントしていただく際の貴殿のアドレスが
http://www.furutaniyoshihisa.com
になっているのが原因のようです。
下に書いていただいた
https://www.furutaniyosihisa.com/
からは、問題なく見れました。
よかったです!
すぐそこまで近づいています。"(-""-)"
リハビリはスリッパではできませんし
院内でもあるきずらいです。
それから、今回もコメント返信様のアドレスが違っていてサーバーエラー状態。
アドレスが、間違っていますので修整願えますか。
→https://www.furutaniyoshihisa.com/ で shi になってます。
子宝湯(こだからゆ)昭和の息づかいを伝える に
コメントをありがとうございます。
コーヒー牛乳楽しみでしたね!!
リハビリには最悪ですねー^^;
その際にはクロックスを室内履きとして持参。
リハビリが必要な病気ではなかったのですが、
入院時にスニーカーを履いて行ったので問題なしかな(笑)
でも、入院中は病室にトイレがなかったので共用のトイレを使用したのですが、
高齢者の割合が高いせいもあり、便器に命中しなかった液体が床に。。。
何度か経験したのですが、これはとてもしんどかったです。
あとから靴を持って来るように言われましたね。
足元おぼつかない状態でしたし。
スリッパだけじゃ、病気の人が歩くのには向いてませんよね.。
履きやすい靴を用意しました^^